●義父の背中
私の親の年代にはよくあることだけど、
特にそのくらいの年齢の男性が個々にどんな人なのか、あんまりピンとこない。
感情を表に出さないというか、揺れを感じさせないというか
「男は黙って」世代なのか。
自分を晒さないことに集中しているようにも見える。
だからこそ、感情が垣間見えるとき、「図らずも出てしまった」貴重さに心打たれる。
例えば、泣くことを恥と思っているような父親が娘に上手に愛情表現できない父親が
娘の結婚式でこぶしをギュっとにぎって、下を向いた瞬間にこぼれる涙の粒だとかに。
私は、そんな場面が好きだ。
人間が人間らしく、きれいな感情が見える時に美しさを感じる。
今回は、場面は全く違うけど、そんなお話。
旦那のおばぁちゃんのお葬式。
会場に着いて遺影を見に行くと義父が居た。参列者の一人と話していた。
遺影のおばぁちゃんは留袖を着てお祝いの帯をしめてにっこりしていた。
義母が「この写真、あんたたちの結婚式の時のとよ」と教えてくれた。ぐっときた。
「昨日はすみません、遅くなりました」と義父に声をかけると、うんうんと頷いてくれた。
お葬式の喪主挨拶で、義父は語った。
おばぁちゃんは頑張り屋だったこと、義父の物心つくころから夜もミシンの音が聞こえたこと。
小学校に上がる頃になると編み機の音になったこと。
40歳を過ぎて保険の外交員になったおばぁちゃんは水を得た魚みたいだったこと。
定年退職したおじいちゃんと国内旅行に行けるのが楽しいといっていたこと。
おじいちゃんが亡くなって数年、入院を繰り返したこと。
脳梗塞のまま数ヶ月意識が無いままにお別れになってしまったことが残念だと。
三人兄弟の長男である義父と叔父はこの地を離れて暮らしていること。
この地に残るのは叔母だけであること。
参列者に、おばぁちゃん同様、叔母をかわいがってやって欲しいと結んでいた。
愛情に溢れた喪主挨拶だった。
人生の重みの感じられる言霊たちだった。
葬儀の後、おばぁちゃんの棺に親族で花を入れた。
義父が、その手に溢れんばかりの慈しみを込めておばぁちゃんのお顔の横にユリの花を置いた。
お化粧が施されたおばぁちゃんは少女みたいに見えた。
おしゃれなおばぁちゃんらしい細かな美しい刺繍のある上着とつば広の帽子が入っていた。
そして足元にカバーが付いたハードカバーの書籍が開いて伏せてあった。
その時、私は初めておばぁちゃんの読書好きを知った。
上着も帽子も本も色とりどりの美しい花で見えなくなった。
ふと見るとおばぁちゃんのお顔の横で、義父が静かに涙をこぼしていた。
おばぁちゃんのおかげで、私は、普段見ることのできない美しいところを見せてもらった。
ものすごく愛情が分かりにくい人の静かな愛情を。
火葬場で待つ間、義父はしばらくの間皆と離れて座っていた。
座敷の端に、開けた窓に向かって皆に背を向けて。
うまく表現できないけど、私にはそのときの背中が一番感情が伝わる瞬間に思えた。
生きてる時のおばぁちゃんと居る義父よりも、泣いていた時よりも、棺を閉める時、運ぶとき
最後のお別れの時よりも、一番魂の揺れを感じた気がした。
静かに自分の想いだとかと対峙しているように見えた。
しばらくして義父は孫たちの傍へ行き、ゲームに興じるチビたちに寄り添い、
それから親戚の皆さんのことろでお話をしていた。
どんなに分からないと思っても、夫婦喧嘩や親子喧嘩に遭遇しても
これから先、今までに無い場面を見てびっくりしても
あの時の義父の背中を思い出したら、別にどうってこともない気がする。
きっとその時はその時で、そんな訳ないじゃんと思うんだけど、今は何故かそんな気がする。
コメント
読みながら泣いてしまいました(;_;)
人は生まれる時も亡くなるときも
唯一無二の感動をもたらすのだと…改めてそう思いました。
ちかさんの文章が素晴らしすぎて
光景がありありと目に浮かびました。
Posted by: ケロッピ | 2006年10月12日 21:51
ものすごいお褒めの言葉をありがとう。
何でもすぐに忘れてしまうので、感じたことをどこかに留めておきたくて急いで書きました。
Posted by: ちか | 2006年10月15日 00:10
ちかさんの優しさ、こころのあったかさがうらやましい、、、仕事でギスギスしている自分が何だかちっぽけで、、、人が人として生きるとゆうことを、改めて考えさせてもらいました、、、ちかさん、ありがとう、、、何だか、ちかさんと会って話したくなりました。
Posted by: おねやん | 2006年10月16日 01:38
おねやん、おねやん、きっと忙しいだけだよ。
忙しいって「心」を「亡くす」って書くもん。
何かに集中すると余裕が無くなるけど、人間の本質は変わってないはず。
人間だから良いときも悪いときもあるもん。
ありがとうって書いてくれて、ありがとう。
昨日かおとといだったかなぁ、おねやんどうしてるかなぁ・・って思っていたの。昨日コメントか書いてくれたのね、繋がっちゃったね。
近いうち顔を見に行きます。
Posted by: ちか | 2006年10月17日 12:52